ウィスキーマン男はつらいよ

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ピザの底を見たまえ

 知人から「食にこだわらない」「口に入れば何でも構わない人」と言われるがピザの焼き加減には強いこだわりがある。立ち寄ったスーパーにベーカリーがあればピザを探して店内のどこよりも時間をかけて査定する。

 個人的にはところどころコゲ目がついて全体が狐色より濃い目の茶色が一番と思っているが、そこまで焼かれたピザは裏が真っ黒にコゲすぎている場合がある。表面と違って裏の真っ黒コゲは炭そのものでとても食べられない。

 このように書くと重度のピザ中毒のように思われるが私の場合は少し違う、いうなればピザ焼き中毒だ。

 この夏タクシーの立ち上げ申請していた時期、高時給に惹かれスーパーマーケット内カフェのピザ部門に応募し併設工房の焼き係りとしてたびたびピザスコップを振るった。

 その工房では①生地を延ばす②具のトッピングする③焼く④カット&品だしをする4つの係りに分かれていたが③④を兼務する場合もある。静かにオーブンの前で佇むのが多い③焼きを命ぜられたとき内心得した気分だったがこれは大いにアテが外れた。

 電気オーブンとストップウォッチで機械的に作業できると思っていたが4台のオーブンにそれぞれにクセがあり内部の位置にも微妙な温度差がある。オーブンの中は上下2段に分かれているため計8つの窯を使って8枚焼くのだがこれが忙しい!

 窯に入れて焼き始め約1分半で半回転させてその後さらに約30秒焼く、そのとき確認した8枚のピザの焼き具合から30秒後どう調節するか作戦を練る。その後が戦争だ!

 焼きあがったら「お願いします!」の掛け声とともにピザをステンレス製のトレーにすべり落としてカット係りに回し、庫内で一番温度が高いポイントに合わせてピザ網を随時回転調節しながらすかさず残りの半焼きピザをよく焼ける窯に入れ替え、さらに空いた窯に新しいトッピング済みの生ピザを装填する。焼きが大詰めになると大げさでなく数秒単位で調節しながらこれらを行う。窯にこき使われるといった状況は「千と千尋の神隠し」の釜じいさながらで「スコップさばきを見よ!」という感じだった。

 そうピザを焼くのは大変だったが私は楽しく好きだったのだ。全国の支店を技術指導して回っているピザトレーナーはプロのパン職人で大変に厳しく指導されたがそれも今となってはいい思い出である、まああくまで今となっては。

 2ヶ月で契約が終了し私は地元で介護タクシーの営業を開始した。一緒に働いた仲間の一人は熱心なクリスチャンでピザバイトで活動資金を貯めて、海外で聖書の講義をするボランティアをしている。他にも色々なバックボーンの仲間がいたが今頃皆がんばっているだろう。

 良いチームだったピザ部門は我々アルバイトメンバーが撤退後、リーダーとサブリーダーの方針の違いでリーダーは部署を異動し今はサブリーダーが指揮を執っているらしい。また新しい雰囲気の「ピザ部」ができていくのだろう。

 たった数ヶ月前の出来事だが懐かしく冒頭のようにピザを見ると焼き加減をチェックして上手に焼けていると本気で感心してしまう。ちょうど良い焼き加減のピザは実は貴重でそれに当たったらその日はラッキーデーと自信をもって頂きたい。

 美味しいピザを食べている人は老若男女例外なく無垢な顔になっていて、客の想像以上に作り手はその光景が楽しみであり誇りに感じている。美味いピザにありつけたなら遠慮なくにっこり笑顔で上機嫌になっていただきたい。