ウィスキーマン男はつらいよ

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介護タクシーの車窓から

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昨日ブロック塀に蝉の抜け殻が張り付いていた。

見渡したところ他に殻はなくこの界隈じゃ一番乗りの頑張り屋さんだ。

「ああ夏だな」と季節を実感した。

夏を一足早く届けてもらった気がしてなんだか気分が良かった。

この日は午後から快晴で殻の主も存分に羽を伸ばしただろうが翌日の今日はあいにくの雨。

木曜日は通院送迎もなく開店休業、テレビをつけたらコメディアンが大笑いをしていた。

窓の外を見てあの蝉は大丈夫だろうかなどと考えていた。

姪の結婚2

私が新郎に腕相撲を挑んだのは勝算あってのことではないし理由も分からない。たぶん酔っていたからだろう。

 

新郎が新妻である姪にどうしようかと相談したとき彼女は一言「やっちゃり!」と言ったらしい。

そうとも茶番はごめんだ、私は真顔で近づいてくる新郎を見て安心した。

テーブルクロスを掛けたワゴンに新郎とひじをつき手を握ぎり合わせた。彼の手は私よりかなり厚く力強さを感じた「本気で来い」私は言い聞かせるように新郎に言った。

開始の掛け声を皆で合わせるため司会者役が披露宴の参加者に呼びかけた。

「皆さんいいですか?それではレディー・・・ファイト!」

開始の合図とともに私は倒しに行ったが新郎は難なく受け止め反対に力強く押し返してきた。腕が一気に私側に傾いたので私は折れんばかりに自分の腕に力をこめ、半分以上私の方に倒れたところで何とか傾くのを止めた。

私も彼も素人だから腕相撲ではひたすら力をぶつけ合うだけだ。

彼が力を入れ直す隙に中央付近まで押し返すのだがまたすぐに押し戻されてしまう。

新郎の三度目の攻撃で私は腕の力だけでは足りず左足を浮かせ自分の腕にぶら下がるように体重をかけて抵抗した。

それもかろうじて耐えたときにはもう腕の感覚がほとんど無くなっていた。

新郎が四度目の攻勢に出たとき私は「姪はお前にはやらん。」と叫んで負けた。私は満面の笑顔だったという。

私の予想外の健闘と負けっぷりは余興を大いに盛り上げ私はたいそうな喝采と拍手を浴びた。

負けたものの私は結果に満足していた。この年で若い力を一度ならず受け止めることができたのが素直に嬉しかった。大人でいるより男でいたい。

姪の結婚

ずっと一緒に暮らしてきた姪の結婚式だった。

もう何年も久しいスーツ姿で臨んだ。

式は老舗の海に面したホテルの教会で行われ

ときどき目をやると祭壇の向こうの晴れた海が眩しかった。

式の後ホテルの庭で出席者全員と新郎新婦で記念撮影し

全員に配られた風船をカウントダウンで宙に放した。

新郎新婦の風船はハート型で特に風にあおられるがしばらく並んで飛んでいた。

バカ離れるなずっと一緒にいやがれ。

 

披露宴は新郎側の出席者だけで150人はいた。

遠くの新郎新婦を見ながら姪の実父側で唯一出席者である姪の従弟くんと話していた。新婦の近親者は母と姉、従弟くんと叔父の私。

式は騒々しく和やかで好感がもてた。

よく分からないが余興で新郎とその弟で腕相撲が始まるようだった。

そういえば宅配業の新郎は見かけによらず友人の中で一番力は強いと姪が話していた。

姪たちの前で強いところは一度も見せてなかったことを思い出した。

 

私は立ち上がり新郎の親友である司会者のところに行った。

「新婦の父です。新郎と腕相撲がしたいのですが。」

来ていないはずの新婦の父親に司会者は驚いたがすぐ

「分かりました、少々お待ちください。」と了承してくれた。

私はちょうどあと10日で47才。新郎は姪より年下で22。

姪である新婦とその友人たちは私に黄色い声援を送ってくれた。

すでに顔見知りの新郎は目を丸くして驚き、すぐ姪と何事かを相談していた。

バカ野郎っかってきやがれ。私は呼ばれて登壇するとすぐ眼鏡を外した。

「グランブルー」(Le Grand Blue)

お題「最近見た映画」

 

ジャック・マイヨール、彼は海の中で癒される

 

主人公の登場シーンが圧巻だった。

 イントロの舞台が一転して地中海からペルー・アンデス山脈。山中の凍結湖に落下した車両の調査に来た保険調査員ヒロインが到着早々あまりの寒さにあたふたと学者隊の基地に駆け込む。

 基地の扉が開いたとき巨大なゴーグルをかけた赤と白のウェットスーツの男がサックスとともにゆっくりと画面いっぱいに現れる、二人はすれ違うとき一瞬見つめ合うが男はそのままヒロインの横を行ってしまいヒロインは目が離せず放心したように後姿を見送る。

 そのあと何事もなかったかのように話しかけてくる博士の助手に事務所で思わず「ゴーグルの男を見た?」と確認するヒロイン。まったくこの登場シーンは衝撃的であの瞬間確かに彼が人間以外のものに見えた。これ以上はないインパクトで彼が超人的にさえ見える演出である。

 そのあと物語は主人公ジャック・マイヨールがライバルに促され出場するフリーダイビング大会を舞台に進んでいく。2歳年上のライバルのエンゾは幼馴染にして子供の頃からのガキ大将。強引だが陽気で面倒見の良いエンゾはジャックのライバルだがときとして兄であり父親でもある。

 物語は楽しく陽気に展開するがフリーダイビング世界記録の更新合戦がジャックとエンゾの一騎打ちになってくるあたりで、葛藤するジャックの複雑な心理が浮き彫りになってくる。ジャックはすっかりエンゾに憧れていてエンゾの調子が悪いとジャックも機嫌が悪くなるほど。内心エンゾを負かしたくはないのだが、こよなく海を愛するエンゾは誰が相手だろうと危険を冒してでも勝ちに行く。深海で行うフリーダイビングでの事故は命に関わるがそれでも制止を振り切って記録を更新していくエンゾとエンゾに対する不安と葛藤に悩むジャック。

人生山河険しくも酒

 フリーでいると決めて一年経つ。給料を貰っていたときより金銭感覚がシビアになり年金のはがきが来て払いすぎがあるから還付するというので少し喜んだ。

 夕食時は近所のスーパーに行く。子供のころから食事はスーパーの惣菜だが、ウィスキーに合うものが分からずそれで悩む。今は酒代も節約でスーパーのプライベートブランドを飲んでいる。

 プライベートブランドというと聞くだけで眉をひそめる人もいるが酒類に関しては私はそれほど酷いとは思わない。

 売れ筋や銘酒に似せるなどして喉を通すものにしようとしていてビジネスマンたちの男臭いこだわりを感じる。

 業務スーパーの「菊川」は他の清酒と比べたら驚くほどの低価にして美味い。

 かつてバブル期に乱造された安酒は本当にまずかったが、これは提携先の老舗の酒造が作っているだというのでさすがだと思う。

 最近イオンのウィスキーのスクリューキャップを開けたとき「やたら甘ったるい」と香が酷評されていたが、スコッチの「シーバス・リーガル」に似ていた。もちろんウィスキーのプロに通用しないが私素人には問題ない。口に含めると風味は消えてしまうがそれもオンザロックには関係ない。

 惣菜を並べて一杯やりながら気のむいた映画を観て終わりのほうで残ったおかずをかき込んでウィスキーで流し込んだ。

 もう若くないよと誰かの声がする。

ピザの底を見たまえ

 知人から「食にこだわらない」「口に入れば何でも構わない人」と言われるがピザの焼き加減には強いこだわりがある。立ち寄ったスーパーにベーカリーがあればピザを探して店内のどこよりも時間をかけて査定する。

 個人的にはところどころコゲ目がついて全体が狐色より濃い目の茶色が一番と思っているが、そこまで焼かれたピザは裏が真っ黒にコゲすぎている場合がある。表面と違って裏の真っ黒コゲは炭そのものでとても食べられない。

 このように書くと重度のピザ中毒のように思われるが私の場合は少し違う、いうなればピザ焼き中毒だ。

 この夏タクシーの立ち上げ申請していた時期、高時給に惹かれスーパーマーケット内カフェのピザ部門に応募し併設工房の焼き係りとしてたびたびピザスコップを振るった。

 その工房では①生地を延ばす②具のトッピングする③焼く④カット&品だしをする4つの係りに分かれていたが③④を兼務する場合もある。静かにオーブンの前で佇むのが多い③焼きを命ぜられたとき内心得した気分だったがこれは大いにアテが外れた。

 電気オーブンとストップウォッチで機械的に作業できると思っていたが4台のオーブンにそれぞれにクセがあり内部の位置にも微妙な温度差がある。オーブンの中は上下2段に分かれているため計8つの窯を使って8枚焼くのだがこれが忙しい!

 窯に入れて焼き始め約1分半で半回転させてその後さらに約30秒焼く、そのとき確認した8枚のピザの焼き具合から30秒後どう調節するか作戦を練る。その後が戦争だ!

 焼きあがったら「お願いします!」の掛け声とともにピザをステンレス製のトレーにすべり落としてカット係りに回し、庫内で一番温度が高いポイントに合わせてピザ網を随時回転調節しながらすかさず残りの半焼きピザをよく焼ける窯に入れ替え、さらに空いた窯に新しいトッピング済みの生ピザを装填する。焼きが大詰めになると大げさでなく数秒単位で調節しながらこれらを行う。窯にこき使われるといった状況は「千と千尋の神隠し」の釜じいさながらで「スコップさばきを見よ!」という感じだった。

 そうピザを焼くのは大変だったが私は楽しく好きだったのだ。全国の支店を技術指導して回っているピザトレーナーはプロのパン職人で大変に厳しく指導されたがそれも今となってはいい思い出である、まああくまで今となっては。

 2ヶ月で契約が終了し私は地元で介護タクシーの営業を開始した。一緒に働いた仲間の一人は熱心なクリスチャンでピザバイトで活動資金を貯めて、海外で聖書の講義をするボランティアをしている。他にも色々なバックボーンの仲間がいたが今頃皆がんばっているだろう。

 良いチームだったピザ部門は我々アルバイトメンバーが撤退後、リーダーとサブリーダーの方針の違いでリーダーは部署を異動し今はサブリーダーが指揮を執っているらしい。また新しい雰囲気の「ピザ部」ができていくのだろう。

 たった数ヶ月前の出来事だが懐かしく冒頭のようにピザを見ると焼き加減をチェックして上手に焼けていると本気で感心してしまう。ちょうど良い焼き加減のピザは実は貴重でそれに当たったらその日はラッキーデーと自信をもって頂きたい。

 美味しいピザを食べている人は老若男女例外なく無垢な顔になっていて、客の想像以上に作り手はその光景が楽しみであり誇りに感じている。美味いピザにありつけたなら遠慮なくにっこり笑顔で上機嫌になっていただきたい。

  

インターネット・カフェ

今週のお題「2018年に買ってよかったもの」

 今年生まれて初めてインターネット・カフェに行ったのはパソコンが家になかったからだ。

以前購入した海外製デスクトップ・パソコンは当初正常に作動していたが、ある日インストールした無料ウィルス診断ソフトが最初から派手な警告を告げるので、ネットで調べているうちに起動しなくなった。

 私は「無料診断ソフトだけじゃだめだ」と思い同じ海外製デスクトップパソコンを購入後、無料ウィルス診断ソフト+有料のウィルス対策ソフトを即刻ダウンロードした。2週間ほどで動作がどんどん重くなり画面は日を追うごとに崩壊していき私は悲しかった。まもなくパソコンは沈黙し今は使っていないベッドに1号機と墓標のように並べてある。

 今年に入り介護タクシー開業に向け沢山の書類を用意しなければならなくなった。わざわざパソコンを購入する気にならず、利用料を購入費と思いインターネットカフェをオフィス代わりにすることにした。

 片田舎のネットカフェでも意外と昼間から客がいるのにはガッカリしたがパソコンブースに入って引き戸を閉めると少しホッとした。役所のホームページから書式をダウンロードしたがファイルの種類の関係上開くとレイアウトが崩れてしまっている。提出に耐えるものができない作業は遅々として進まずUSBメモリに書式を放り込み店を出た。ほとんどなんの進展もなかったが疲労感が仕事をしたような気にはさせていた。

 数日後店を変えて再びネットカフェ作業に挑んだ。今度は書式のダウンロードも上手くいき、そこそこに書類を作り少し安堵して帰路に着いた。

 そのような調子で好調不調を繰り返しつつ何とか必要書類を揃え提出し、幾度も役所から補正を受けながら最終的に営業許可に漕ぎ着けた。

 ニューヨーカーが行きつけのカフェで読書に耽るようにはいかなかった。集中すればするほど咳払い、食べ物を咀嚼する音、いびきなどが耳に障り、仕方なくヘッドホンで音楽を聴きながら書類に向かうものの、慣れないBGMが鳴る中の作業は結局倍疲れるのが分かった。

 やはり楽しむべき場所では楽しむべきなのだ。周囲ではサラリーマンが仮眠をとり、カップルが映画を観て、コミックファンが漫画本に没頭してそれぞれ皆インターネット・カフェを堪能している。

 ある昼下がり暇つぶしにネット・カフェへ行きビールを注文して昔好きだった漫画を一気に読んだ。外にでるといつの間にかあたりは薄暗くなっていてほろ酔いのまま歩いて帰った。暇つぶしというに相応しいがカフェ本来のコンテンツを堪能したので良い気分だった。最初は失敗したが結局良い遊び場所を見つけたのだ。今年で一番の買い物をした。